ZCの小箱

□C追えば逃げるの法則
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暮れなずむ道を、ザックスはふらふらと歩いていた。
まだ手の平にはあのしっとりした肌の感触が、腕の中には華奢でしなやかな体の感触が残っている。
ザックスは空を見上げて、はあ〜〜と大きく溜め息をついた。
胸の奥に、熱くたぎった鉛の塊が入っているような気がする。

(また戻ってクラウドをさらって来たい)
こんなに愛しく狂おしく誰かのことを想うなんて生まれて初めての経験だ。

(でも…、クラウドがオレを求めたのは全部病気のせいなんだ。クラウド、きっと明日には全部忘れてるに違いない)
今度ばったり会ったらどういう風に接したらいいだろうか?
これっきり関係が切れるなんて耐えられない。

でも…、クラウドが覚えてなければ…、トモダチではいられるかもしれない。
せめて、せめてトモダチでいたい。
(トモダチでいたらまたチャンスがあるかもしれない)
図々しくもつい楽天的なほうに考えが傾きやすいザックスだった。



ソルジャー棟の近くまで歩いてきたら、いきなり後ろから声をかけられた。
「よ!ザックス!これからメシ?よかったら一緒に食いにいかねえ?」
カンセルだ。

いつまでも一人で溜め息をついてても仕方ない。
それに、気づいたら猛烈に腹が減っている。
きっとエネルギーを使いすぎたんだろう。
「ああ、いいぜ。オレも腹へってる」

カンセルはザックスの隣に並んで煙草を一本勧めてきたが、ザックスに顔を近づけると怪訝な顔をした。

「お前……なんか変わった匂いがする……桃?ともちょっと違うような……」
しまった、ソルジャーは嗅覚が鋭いのだ。
今の自分は色んなものが複合した異様な匂いがしてるに違いない。
まあ、主たるものは桃だが。

「桃食ったから」
「ふ〜〜ん……」
カンセルは怪しむように目を細めたが、それ以上追求もせず、肩をすくめた。

「お前、なんか目付きも変」
「そうか?」
まったくコイツは昼間っから、とカンセルは知った風につぶやいた。
ザックスも特に言い訳はしなかった。


2人は本社近くにある行きつけの定食屋に入った。
カランカランとドアベルの軽やかな音を立てて中に入ると、トマトソースの匂いや脂の焦げる香ばしい匂いがぷ〜〜んと漂ってきた。

「ま、メシでも食いながら話を聞いてやるって。もちろんお前の奢りだからな」
カンセルは混雑した店内を忙しそうに動き回る店員の間をすりぬけて、隅っこの席を確保した。
「なんだよ、話を聞いてやるって」
どっかと座って出された水を一気飲みしたザックスは、胡散臭そうにカンセルをねめつけた。

「悩んでるんだろう?顔に出てるって」
「ええ?!」

カンセルは店員から受け取った熱いおしぼりで、おっさん臭くくるんと顔を拭くと、ザックスににやりと笑いかけた。

「ま、恋の悩みだな」
「んん……」
ザックスは黙ったまま水を飲み干した空のコップを握り締めた。

「もしやあのクラウドくんとの仲をどうしていいかわからなくて悩んでるんじゃねえの?」
「あ、うん……」
ザックスは素直にうなずいた。

「たまには苦しめって!いつも入れ食いだからこういうもどかしい気持ちを経験したことねえんだな。ちょっとざまあみろだ」
「ひでえ、カンセル……」

ねえさん、こっちこっち!とカンセルは手を振ると、注文票片手の店員の女の子に矢継ぎ早に注文した。
「ザックスは?」
「あ、オレもその特大ステーキ定食大盛りと生」
「サラダも食うんだぞ」
「てめえはオレの母ちゃんか……」

生ビールとつまみに頼んだチーズの盛り合わせが来ると、カンセルは
「お前の恋の前途多難さに乾杯!」と言ってザックスのビールジョッキに勢いよくチン!と自分のジョッキをぶつけてきた。
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