<友遠方より・・>


まだ夜明けまでは大分間のある時間、たぶん三時過ぎくらいだろうか、下の階の電話がけたたましく鳴った。

クラウドは暖かく心地良いベッドから渋々抜け出した。

「誰だ、一体こんな時間に・・・」

「出てくれる?」
隣に寝てたティファが寝ぼけたような声を出した。

「ああ、こんな時間に電話をかけるようなヤツはオレの知り合いだろ、どうせ・・」

ありがとね、と毛布の中からティファがもごもご言っている。

溜め息をつきながらクラウドはバスローブをひっかけると、素足にスリッパをつっかけて下の階に下りていった。

ひんやりした夜明け前の薄闇の中、電話のライトが赤く点滅している。

「はい・・」ぶっきらぼうな声で電話に出ると受話器の向こうから能天気に明るい声が返ってきた。

「やっほー!!ユフィちゃんだよ〜!!」

クラウドは一瞬電話を叩き付けそうになった。

「おまえ・・・何時だと思ってるんだ・・・」

「え〜〜と、今さっき夕飯食べ終わったとこだから・・7時頃かな?」

まったく、コイツは・・・この前もそういえば朝早くかけてきたな・・

「それはウータイ時間だろう・・・ミッドガルは真夜中だ!!何回言ったらわかるんだ!!時差があるんだ!時差が!!」

「まあ、それはいいとしてさぁ、私明日そっちに行くからね。シドが乗せてってくれるって。
ウータイの名産品をミッドガルで宣伝してもらいたいんで、色々持って行くよ〜」

「まさかあのシオカラとやらじゃないだろうなぁ・・もうオレは喰わないぞ。」

「あんな高級品はもう持っていかないよ。一般大衆の口に合わないみたいだから、そっちでは販売しないことにしたんだ。シドはうめぇ〜って言ってたのになぁ・・・」

オレは一般大衆代表だったのか・・・

「何時ごろ着くんだ?」

「う〜〜ん、シドが新しいエンジンの点検が済んだらすぐ出るから、こっちを8時頃出て・・・そっちまで10時間くらいかな?」

「お前、乗り物弱いんだろう?ウータイ名物の売り込みのためならガマンするのか?」
少しは皮肉を言ってやろうと一言いったが、
「この前ヴィンセントからすんごく良く効く酔い止めもらったんだ!だからダイジョウブ!!悪いけどクラウドにはあげられないよ。私の分しかないからね。」とあっさりかわされた。

「今度はウータイ酒色々持って行くよ。ティファに良く宣伝してもらおうかと思ってね。あと、そっちに泊まるからよろしくね。夕飯はピーマンいれないで、ってティファに伝えておいてね!!じゃあね〜〜!!」

言いたいだけ言って切れた・・・

アイツが来るのか、と少々気が重くなったクラウドは水を一杯飲んで気を落ち着かせると、寝室に戻った。

「誰から??」ティファが目をつぶったまま聞いた。
「ユフィだ。」
クラウドはバスローブを放り投げると布団の中に滑り込んだ。

「クラウドの足、冷たい〜〜!!」ティファが文句を言うと、クラウドは足をからめてきた。

「ひゃぁ、良く冷えたね。ユフィ何て言ってた?」

クラウドは冷たくなった手をティファの背中の下にいれながら、
「今日の夕方来るって。」と答え、くすくす笑って体をねじりながら逃げようとするティファを両手でしっかり抱きかかえた。

「夕飯はピーマンたっぷりメニューがいいってさ。」


朝になっても頭に綿がつまってるようだった。
寝不足だ。夕べの電話のせいだろう、多分・・・

朝食のテーブルに着いたマリンとデンゼルにティファが昨日の話をしてる。

「今日ユフィが来るわよ。」焼きあがったオムレツを皿に乗せながらティファが言った。

「本当!!嬉しいなぁ〜!! ユフィ、今度オレに手裏剣の投げ方教えてくれるって言ってたんだゼ!!」デンゼルはしゅしゅしゅっと手裏剣を投げるふりをしながら興奮して言った。

「私にはね、コーカテキなウソ泣きの仕方を教えてくれるって!!」マリンも負けじとフォークを振り回す。

なんだかあまり教育的ではないような気がする・・・
クラウドは黙ってコーヒーを飲み干した。

ユッフィ!ユッフィ!!と楽しそうに歌いながらマリンとデンゼルは学校に向かった。

「アイツは子供たちにやたらに人気があるなぁ・・」仕事に出かける支度をしながらクラウドがつぶやくと、
「あら、私も結構楽しみにしてるわよ。」とティファがにこにこして答えた。

「今日は早く帰ってきてね。シドも寄ってくれると嬉しいわね。」

この上シドかぁ・・・・・友人たちが来てくれるのは嬉しいけれど、今はティファとオレをそっとしておいてほしい、というのが本音だった。
それでも、冷蔵庫をあけながら今日のメニューをうきうきと考えてるティファを横目で見て、ティファが喜ぶならユフィのワガママに2〜3日くらいは耐えようとささやかな決心をした。

「行ってらっしゃい!気をつけてね。」玄関先に出てきたティファを軽く抱きしめキスをすると、まあ、いいかと諦めに似た心境になってきた。


こういう日に限って、仕事はなんのトラブルもなくスムーズにおわるものだ。

エッジへの道の脇に黒々とシェラ号のシルエットが見えてきた。

クラウドは覚悟を決めた。

セブンスヘブンの前にフェンリルを停め、扉に手をかけた時、貼紙に気づいた。

『本日貸切』ユフィの字だ・・・アイツ、また勝手に貸切にして・・・

扉を開けるとむっと暖かい空気とともにユフィのケタケタ笑う大声が耳に入った。
何の話をしてたんだか隣でティファが体を折り曲げて苦しそうに笑ってる。

「おお、クラウド!!!久しぶり!」
シドが迎えに出てがっしりと手を握った。
「やあ、元気だったか?すごい騒ぎだな。」
クラウドはシドの分厚い大きい手を握り返した。

「オレはアイシクルロッジに行くって言ったのに、ユフィのやつ、じゃあついでにミッドガルまで乗せて行けだとよ・・・
どこがついでだよ!なぁ!!」

「クラウド!!!」ユフィが大声をだしてかけよって来た。

「ひっさしぶり!!元気そうじゃないの!」ユフィは、挨拶だぞ〜としゅしゅしゅパンチをクラウドの腹部をねらって打ってきた。

「相変わらずウータイのため飛び回ってるみたいだな。」

「今回は色々いい酒持ってきたから飲んでみてよ。試飲は無料だから。」

シドの飛空挺に荷物を持ち込んでただ乗りしてきて、名産品売り込みに来たわりには威張ってる・・

「クラウド、シャワー浴びて着替えてきたら?お腹空いたでしょう。」ティファが声をかけてきた。

クラウドはほっとして皆に軽く手をふると階段を上がった。


さっぱりして夕食の席の着くと早速ユフィが何種類かボトルを持ってきた。
「水神のめぐみ、旭桜、鯨夢、このへんは米の醸造酒だから飲みやすいよ。あとウータイ焼酎。芋焼酎だよ。
この熊殺しなんて効くよ〜〜!」

「お腹が空いてるのにいきなり飲んだら体に毒よ。」

ティファは皿に盛った料理を次々運んできた。

ユフィは、お!ティファの手料理だ!と言いながら持参の箸を懐から取り出したが、皿をじっとみつめるとクラウドに恨みがましげな視線を移した。

「クラウド〜〜・・・」

皿の上にはピーマンの肉詰め、鶏のローストピーマンとポテト添え、牛ヒレと玉ネギとピーマンの串焼きが乗っており、別皿のピザにはたっぷりのピーマンが・・・

「はかったな・・・」

クラウドは聞こえないふりをした。

「ティファもさ、こんなヒネクレ者でややこしい男のどこがいいんだか!!」

「何か言った??」ティファがにっこりしながらさらにピーマンがごってり入った炒飯を持ってきた。
「ユフィから教わった炒飯よ。これ評判いいの。」

「クラウド〜〜・・私が今ピーマンキライって言ったら鬼に聞こえるじゃないか・・」ティファが背をむけるとユフィはこっそりぶつぶつ言った。
「そろそろ克服しないとな。」クラウドが鶏にナイフを入れると熱い肉汁がほとばしった。
「は〜〜・・、クラウドに言われちゃオシマイだよ。」クラウドが切り取った肉切れを横から箸で素早く自分の皿にうつしながらユフィがつぶやいた。

なんだかんだと言いながら、ユフィは結構食べた。

シドはアイシクルロッジに明日までにはつかないと、と席をたった。

「ゆっくり話せなかったな。」歩いて行ってもたいした距離じゃないというシドを送ろうと、クラウドはフェンリルのキーを片手に一緒に出てきた。

「オレはな、クラウド、すごくほっとしてるんだ。、」シドは煙草に火をつけるとクラウドを振り向いて言った。
「何がだよ。」なんとなく答えは予測できた。
「お前とティファが幸せそうにしてるのを見てさ、ああ、やっと色んなことにケリがついたんだなって。」

クラウドはふっと笑うと「オレはずるずるしてるらしいからな。」と言った。

「おいおい、らしいどころじゃないさ、ずるずる大王だぜ!!」
二人は顔を見合わせて笑った。
「シドはどうなんだ?」

「おうよ、オレはシェラと所帯持って仲良くやってらぁ。もうすぐ子供も生まれるんだぜ。」
「それはおめでとう。ティファに話してもいいか?」
「いいぜ。そのうちうちの方にも遊びに来いや。」

シドは誰も周りにいないのにクラウドの耳に口を寄せると「新婚旅行にな・・!女はウルサイぞ。どっか連れてかないと、一生ねちねち言われるからな・・」と男としての助言をしてくれた。

クラウドはシドが飛び立って行くのを見送りながら、シドはシェラを一体どこに連れて行ったんだろうとぼんやり考えた。

セブンスヘブンに戻ると、ユフィが小型の手裏剣をだしてデンゼルに投げ方の指南をしていた。

「だからさ、こうだよ、見ててみな!」

ユフィは壁に立て続けに手裏剣を食い込ませた。
デンゼルが投げると壁に当たって落ちてしまう。

「おい、うちを穴だらけにするなって。」バーの片側の壁にぶつぶつ沢山穴が開いている。
「ティファがこの壁はいいって言ったんだよ。」デンゼルがねっと言うようにユフィの顔を見上げた。

「シドは帰った?これからアイシクルロッジじゃ大変だね〜」手裏剣についた脂をふきとりながらユフィが声をかけた。

「お前が無理やりこっちに寄らせたんだろう・・・」

「いいんだよ、シドは飛んでれば幸せなんだから。」
まったく身勝手な論理もあったものだ。

クラウドがカウンターに腰掛けると、ティファが綺麗な色のカクテルを持ってきた。

「ユフィがね、これウータイブレンドですごく美味しいからクラウドに、ってさっき作ってくれたのよ。」

アイツが殊勝なことをするなんて珍しいな、と思いながら一口飲んでみた。
甘くて柑橘類の香りがして口当たりがいい。

「ふ〜〜ん、美味いな、これ。オレにはちょっと甘いけど。」

ティファはどれどれと手を出すと味見のつもりで一口飲んだ。
「あら、すごく美味しいじゃない!!私にも作ってもらおうかな。」
ティファは名残惜しそうにグラスを置いた。

「アイツはまだ手裏剣投げごっこに夢中だから、これ飲んだらどうだ?どっちにしろオレには甘過ぎるし。」

ティファはありがとう、と言うと夢中で手裏剣投げをしているユフィたちをちらりと見てからクラウドの隣に座って飲みだした。

マリンまで加わって、三人でわいわい手裏剣投げに夢中だ。
その内、的があれば私の天才たるところを見せてやる、とユフィがいうもんだから、マリンは自分の部屋にとんで行って、クレヨンと紙を持ってくると的を書き出した。

ティファはクラウドの隣でカクテルを飲みながら楽しそうにそれを見ていたが、マリンとデンゼルが的の真ん中を何色に塗るかでもめてるのを笑っているうちにぐらぐらとクラウドの肩によりかかってきた。

「ティファ、眠いのか?」クラウドが心配してティファの顔を覗き込むと、
「ぜんぜん!!眠くない!!でもクラウドが寝るなら寝てもいいなあ〜」ティファはクラウドの肩に手をまわすと頬に音高くキスをした。

その音にユフィたちも振り向いた。

「あれ、ティファどうしたの?」マリンが心配して聞いてきた。

「ダイジョーブよ!ちょっと酔っただけだから。ね、クラウド。」『ちょっと』どころではない。目の焦点が定まっていない・・

「まさか、あのカクテル、ティファが飲んだの??」ユフィがおそろおそる聞いた。

「ユフィ!!あのカクテルはなんだ??」いやな予感がした。

「あ・あれは・・・熊殺し盆踊りブレンドっていうんだ・・・熊もいいご機嫌で踊りだすっていう・・」なんていう名前だ・・

「オマエ、あれをオレに飲ませようとしたろう!!」

「いや、ちょっとしたイタズラ心だよ。アレ飲むと結構ハイになるから、いつも暗いクラウドを明るくしてやろうかと思ってさ。」

「マリンとデンゼルはもう寝なさいよ〜〜」ティファは立ち上がろうとしたが腰に力が入らないのかずるずると座り込んでしまった。

クラウドはティファを抱き上げ、肩に担ぎ上げた。

「上に連れて行く。」

「水沢山飲ませて一晩寝かせれば大丈夫だよ。」ユフィが自信をもってそういうと、マリンとデンゼルが、本当?と心配そうにユフィの服をひっぱった。
「私も行こうか。」ユフィが追いかけようとするとクラウドは階段の途中で振り返り、
「来るな!」と言い捨てて上がって行った。

ひでぇヤツ!という声が聞こえた。マリンたちが階下で騒いでるのを尻目にさっさと寝室に連れて行った。

ティファをベッドに横たえたが、さて、どうしたものか・・・

まず靴を脱がそう。
編み上げのしっかりした靴で意外に結び目も固い。なんとか悪戦苦闘して両方脱がせた。
まいったな・・・
ティファは気持ちよさそうに眠っている。
着替えさせないといけない。オレは平常心で着替えさせることができるか・・・
上着のボタンに手をかけるとティファが目を開いた。

「ん〜〜、クラウド〜〜・・」下からいきなり抱きつかれた。
「大好き!!大好き!!!この髪も目も口も鼻もみんな好き!!」
クラウドは、そっとからみついたティファの腕をはずした。
「水を飲んだほうがいい。」大丈夫だろうか?こんなに酔ったティファは初めて見た。
水をコップになみなみ入れて渡すと、ティファは一気に飲み干した。

「あ〜〜!!暑い、暑い!!」ティファは乱暴に上着を脱ぎ捨てた。白い上半身が上気してピンク色に染まってる。
「クラウドも脱いで!!」こんなことをティファに言われたことはない。
しかたなく上着を脱ぎ、上半身裸になった。
「体を見せて・・」何を言い出すんだろう。観念してティファに背中を向けた。

「可愛そう・・・この傷もこの傷も跡が残ってるのね・・」
「痛かったでしょう・・・こんなにたくさん・・」ティファは指で傷跡をなぞった。

ティファは背中から抱きつくとクラウドの背中に顔を押し付けた。
ティファはクラウドのうなじに口付けをした。

「ん・ん〜〜・・この辺りが一番クラウドらしい匂いがするわ・・」
いきなりティファはクラウドの肩を噛んだ。
痺れに似た快感が体を駆け抜ける。
「ティファ・・大丈夫か・・」
振り返ったクラウドにティファがしがみついてきた。

「十分、大丈夫・・・クラウド、来て・・」

痛い・・また肩を噛まれた。
ティファと二人でもつれこむようにベッドに入ると、まあ、こんな酔っ払いならたまにはいいかもしれないという思いが一瞬頭をかすめたが、潮のようにおしよせ高まる激情に流され、そのまま何も考えられなくなった。

汗が・・汗が流れる・・・
肌は滑って甘いような香ばしいような匂いに満たされる。
ティファは目をつぶっている。ああ、という声とともにクラウドの上に乗り体を反らせる。
「クラウド・・・」声は部屋の薄闇の中にひきずるように漂う。

再び倒れ掛かりからみあったままお互いに固く抱き合い、唇を合わせたまま眠りにひきずりこまれた。


ユフィはさすがに心配になった。
ティファに飲ませてしまった焼酎はウータイで一番強いと評判のもの。

マリンとデンゼルを指揮して、片付けをしてから一休みしてると、マリンが
「ユフィ、ティファ大丈夫かな?」と心配そうにじっとユフィを見つめている。

「だいじょーぶだってば。クラウドもついてるしさ。」

「でもクラウド、病人の世話なんてできるかな?」マリンが心配すると、

デンゼルが「病人じゃないよ、酔っ払ってるだけだよ!」と反論した。

「ふぅ〜〜ん、ちょっとだけ様子みてくるか・・」ユフィは二人を連れて階段を上がり、寝室前で立ち止まった。

「ちょっと待ってな、忍者の基本は偵察だからね!」
心配そうに階段のすぐ下で待ってる二人にユフィは指を振って合図した。

そっとドアを開けた。

淡い月の光が窓から入ってきている。
ぼんやり照らされた部屋の空気は意外に暖かかった。

ユフィは一瞬ベッドの上に目をやると、すぐさまドアを閉めた。

「ユフィ!ティファ大丈夫??私、見に行かなくて大丈夫?」マリンはユフィの仕草に不安になったのか一段上がってきた。

「ああ〜・・ほれ、18Rって知ってる??このドア開けちゃダメだよ!ティファはじゅ〜〜ぶん、大丈夫だから。」

18Rって何さ?というデンゼルを横目に、マリンはうなずくと、
「じゃあ、オトナの時間なのね?」とうんうんと納得した。

なんだよ〜というデンゼルにマリンは、「バカ!!」というとユフィと腕を組んで自分の部屋に上がって行った。
デンゼルはなんだかさっぱりわからず、あわてて二人を追って階上に急いだ。

朝の光が顔を照らして、クラウドは目が覚めた。
昨日はカーテンも閉めずに眠っていたようだ。
ティファは大丈夫だろうかと隣を見ると、ぐっすり眠っている。
そういえばティファはいつも朝早く起きるので、あまり寝顔を見る機会がなかった。

ほとんどあどけないと言ってもよいような寝顔で熟睡している。

クラウドはそっとティファの髪に手を差し入れるとすべらかで絹のような感触を楽しんだ。
髪に顔を埋めると百合の花のような匂いに混じって汗もほのかに香っている。
頬ずりして軽く口付けすると渋々起き上がった。
体の隅々に心地よい疲れがうっすらと残っている。胸の奥から幸福感がこみあげてくる。可愛いティファ・・大事なティファ・・

ゆっくり寝かせておいてやろう。いつも早起きしてるティファにどんな朝食を作ろうかと考えながら、身支度を済ませ階下に降りていった。

なにやら変わった匂いが漂っている。
台所をひょいと覗くと、ユフィとマリンが何か作ってる。

「おっはよう〜〜!!」ユフィが先に声をかけてきた。
「今日は私とユフィで朝ごはん作ったのよ!」マリンが嬉しそうに叫んだ。横からデンゼルも、「ボクだって頑張ったんだぜ!」と胸を張ってる。
マリンは手をべたべたにしてご飯を丸め、デンゼルはノリを丸めたオニギリに巻いている。

「ヘルシーだぞ!ウータイ風朝食だからな!」

ユフィは「オニギリ」を沢山作って皿に盛り上げた。

さあ、一緒に食べよう!とユフィがテーブルの真ん中に大皿を置いた。

「ほれ、ミソ・スープも飲みなよ、体にいいよ〜!」

クラウドの前には山盛りのオニギリとミソスープが置かれた。

食べてみたら意外に美味い。

マリンが美味しい?と心配そうにクラウドの顔を覗き込んだ。
クラウドは思わず微笑むと「うん、美味いよ。」とマリンにうなずいた。

「クラウド、18Rってな〜に?」いきなりデンゼルがクラウドにせまる勢いで聞いたのでクラウドはオニギリを取り落としそうになった。
「なんだ、その話は?」
「昨日ユフィとマリンがこそこそ話してたんだけど、教えてくれないんだ・・ひどいよね。」
「なんでいきなり18Rなんだ?」クラウドが聞くと
「ユフィが昨日クラウドたちの部屋覗いて、18Rだ、クラウドとティファはオトナの時間だから部屋に入るな!って言うんだよ。18Rってオトナのこと?」

ユフィ・・・何を見たんだ・・・

「18歳くらいになればわかるってことだ。」クラウドは仕方なくそう答えるとデンゼルの頭をぽんぽんとたたいた。

「クラウド!!首のところ何??!!歯型??」マリンがいきなり叫んだ。首から肩にかけてなでてみると押すと痛い部分が何箇所かある。
「どうってことない。」思わずぶっきらぼうに答えてしまった。
「鏡見てみなよ!」マリンはぴょんと椅子から飛び降りると壁掛けの鏡を外して持ってきた。

これほどとは思わなかった・・・
胸元、首、肩にかけて紫のアザがいくつもついている・・・今日は襟をしっかり立てて過ごそう・・・

「なんでもないさ。」鏡をマリンに返すと、心配そうな顔でじっと見ているマリンに微笑んだ。
本当にミニティファだ。オレはマリンにまで心配をかけてるのか・・・

「病気じゃないから大丈夫だよ。」
マリンはやっと表情を和らげた。

「私がよく説明しといてやるよ!」ユフィが皿を片づけながらにっと笑った。

頬にかっと血が上った。

「オレはもう行く。ティファをよろしくな。」こんな時はよけいなことは言わないに限る。

「まっかせときな!!私を甘く見ちゃいけないよ!なんだって出来るんだから。」
ユフィは胸をはってクラウドを送り出した。

少々不安はあるものの、ティファ一人で置いていくよりはいいだろうと思い、今日のスケジュールを最短時間でこなせるよう頭の中で計算しながらエンジンをかけた。


幸いトラブルもなく仕事を終えるとエッジに向かってスピードを上げた。
夕日は沈みつつあり、道の脇にわずかに生えた潅木が長い影を落とす。
日が傾くにつれ、風は冷たさを増してくる。
ティファは大丈夫だろうか?昼間連絡した時はまだ寝ているとユフィが言っていた。

セブンスヘブンの前にフェンリルを停めるとドアに札がかかってるに気づいた。

『本日臨時休業』

ドアを開けると「おかえりなさい!」とティファがキッチンから声をかけてきた。

「大丈夫なのか?」昼まで寝てたそうだが結構元気そうだ。

「うん、起きた時少し頭が痛かったくらいで、もう気分はすっきりよ。」

「ウータイの酒は覚め心地も悪くないんだよ!今度クラウドも飲んでごらんよ。」
ユフィが得意そうにひょこっと顔を出した。

「ユフィ、今日帰っちゃうんだって〜・・」マリンが残念そうに皿を並べながら言った。

「さっきシドから連絡があってね、シェラさんにもうすぐ赤ちゃんが生まれそうだからユフィを乗せたらすぐ帰るそうよ。」
ティファは、こんな大事なことを私に話すの忘れるなんて・・と小声でぶつぶつ言いながら鍋をかき回した。

「忙しいヤツだな〜」ユフィはハムのブロックを切りながらちょこちょこ口に入れている。、これうまいな〜とデンゼルとマリンにもつまみ食い用に切り分けて渡した。

「オマエのせいで忙しさ倍増しじゃないか。」クラウドがつぶやくと、ナイフの先に切り分けたハムをクラウドにつきだしながら、
「人間、忙しいうちが花さ。」ユフィが言った。

クラウドは、雑に切り取られたハムをつまみながら、まあ、ユフィがたまに来るのもいいかもしれない、と苦笑した。

暖かいシチューとハムをたっぷり使ったサラダの夕食をとると、ユフィは帰り支度を始めた。

「結局一晩しかいられなかったわね。」ティファは残念そうに言うとユフィにハムのブロックを包んでやった。
「それも、私は半日酔って寝てたし。」ティファは溜め息をついた。

「いいってことさ、ウータイにも今度おいでよ。新生ウータイを見せてやるよ!こっちにもまたちょくちょく来るようにするからさ。酒の評判、よく聞いておいてね!!」


シドは時間通りに現れた。
暗い空から飛空艇がみるみる大きさを増し、重さを感じさせないような優雅さで着地した。

「クラウド、わりいなぁ!!急いで帰らないといけなくなっちまってよ。」
シドは飛空艇用の皮手袋をしたまま降りてくるとユフィの荷物を運び込んだ。

「クラウド、またね!」ユフィは飛空艇に向かって走っていったが、急にくるりと向きを変えるとクラウドに近づき、
「コレ、例のカクテルのレシピだよ!!ティファもたまには自分を解放しなくちゃね!」小声で言うとこそこそとクラウドのポケットに丸めた紙をつっこんだ。

「え?何なの?」てティファが聞くと、「内緒!」とユフィは言って走って行った。

ティファがクラウドのポケットに手を突っ込もうとしてもめてる間に飛空艇はふわりと浮き上がった。

二人はしばしもみ合いをやめ、夜空に飛び立っていく飛空艇に手を振った。

「ティファ・・」クラウドはティファの肩に手を回すとそっと抱き寄せた。

「今度シドのところに遊びに行こう。ウータイに寄ってもいいな。」

「旅行ってこと?」ティファが嬉しさを抑えきれない声で聞いた。

「ああ、一緒にゆっくり過ごそう。」

「マリンとデンゼルは?」

「それは今考え中だ。」

二人は顔を見合わせて笑った。

「バレットも二人に会いたがってる。」

ティファはクラウドに抱きついた。

「ずっと一緒だ」

「いつまでも。命終わっても。」

クラウドは暖かいティファの体を腕の中に感じながら、そっとささやいた。


           完

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