*SECRET*(たいした事ナシ)

<逃亡 1>

いったい何日目になるのだろう。
雪はいつしか吹雪になり、薄いコートの中にも容赦なくはいりこむ。
肩を支えてるというよりは大きな荷物を小脇に抱えてる、と言ったほうがいいようだ。
自分の肩にクラウドの手を回し、腰を抱きかかえて無理やりひきずってるといった按配だ。
すっぽり毛布にくるまれた体からぬくもりが伝わってくる。

たしか、この荒野の先には畑の見張り小屋のようなものがあったはずだ。
ずいぶんと昔にこの近辺に演習に来たことがあったので覚えている。

「もう少しだ、クラウド、がんばれよな。」

返事がないのはわかっているが、始終彼に話しかけている。
時折じっとザックスの目を見つめることがあるが、正気にかえったのかと喜んで声をかけると、すぐに自分の中にひきこもるように目から光が消える。

(オレが絶対治してやる。)

毛布越しに伝わってくる温かみは生きている証し。

(時々少し意識が戻ってるんじゃないかな?)

ザックスはクラウドの腰にまわした手に力をこめると、気力をふりしぼって雪の中をさらに進んだ。一歩歩くごとに足が雪に深く埋まり、体力を容赦なく奪っていく。
吹雪はさらに勢いを増し、睫毛にも雪がからみつく。

(クラウドくらい睫毛が長ければ、雪よけになるのにな。そうか、コイツは北国生まれだった。だから睫毛が長いんだ。)毛布にくるまった顔を覗き込むとぼんやり目を開けており、睫毛にも雪が積もっている。
(やっぱりな、思った通りだ。これくらい睫毛が長いと、雪が積もるってことだ。ああ、オレ疲れてきてる。こんなことで感動してるよ・・)

生気の失せた白い顔を見つめるとクラウドは2〜3回まばたきをした。
睫毛の雪が落ちた。

(なんだかビスクドールみたいだ。可愛いなあ。)
ザックスは左手に力をこめて細い腰を抱き寄せると、右手でクラウドの頭の上に積もった雪を払ってやった。クラウドはぶるんと首を振ると雪を振り落とした。

(ヤバイぞ。悪い、クラウド、オレ今一瞬お前に欲情しそうになった・・)
無敵の耐久力をほこるソルジャー1stではあるが、精神的にも肉体的にもかなり限界だった。

道の先をみやると薄闇に舞い上がる雪の中にうっすらと小屋らしいものが見えてきた。
体にたたきつけるような猛烈な雪風がどんという音とともに枯れた木々の間を吹き抜けていく。

(助かった、今晩はあそこで夜を過ごせる。)

最後の数メートルは這うようにしてやっとたどりついた。

きしむ扉を開け、中に転がり込むと、扉を閉めかんぬきをかけた。
小屋は収穫期の畑の張り番のための物のようで、小さいながらも暖炉と木製の粗末なベッドがあった。
(あまり灯りをつけるわけにはいかないな。暖炉くらいなら大丈夫か・・)
クラウドをベッドに寝かせ、ゆっくり部屋をみまわした。
都合の良いことに、窓には鎧戸がついており、固く閉まっている。

部屋の隅には有難いことに薪も積んである。
かじかんだ手でポケットの中のマッチを摺り、小さな火を熾した。

背嚢の中には途中の村で失敬した食べ物がいくらかと小鍋が入っている。

小鍋の中に外から雪をとってきていれ、暖炉の火にかけた。

(やっと少し落ち着いたかな・・)

がたつく椅子に腰掛けてクラウドの方を何気なく見てぎょっとした。
クラウドは体を起こしており、じっと暖炉の火をみつめているのだ。
その顔には恐怖がはりついており、見開いた目の中には紛れもない恐慌の兆しがほのみえる。

「あ・・あ・・あ〜〜〜〜〜!!!!」
クラウドは突然絶叫すると立ち上がった。

「クラウド!!!どうしたんだ!!落ち着いてくれ。」
もがくクラウドを押さえつけ、ベッドに座らせた。

「母さん・・・」クラウドは火を見つめるとわなわなと震えだし顔を覆った。
ニブルヘイムを思い出してるんだ。クラウドは廃人なんかじゃない。心の奥深くにこもってるだけだ。ザックスは震えるクラウドを抱きしめた。
痩せた体は思いの他華奢で、強く抱きしめていると徐々に震えは止まってきた。

「大丈夫だ、オレがいる。お前を守ってやるよ。」
ザックスを見上げたクラウドの顔は、再び元の人形のような無表情に戻りつつあった。
火影を受けはるか彼方をぼんやり見つめている横顔は中性的で天使のようだ。半開きになった形の良い唇からは白い歯が淡く光っている。

背筋がぞくりとした。

クラウドの青い目が潤んでいる。さっき泣いたのだろうか、炎の動きに合わせて底深くから碧玉のように煌く魔光の瞳。
ザックスはゆっくり唇を重ねた。柔らかい唇は冷たく、人魚と口付けしてるようだった。クラウドの手が背中にまわり、ザックスを抱きしめた。
(寒いから少し温めてやるだけだ。)自分に言い聞かせた。
濡れた衣類を脱がせ、椅子にかけると、埃くさい藁布団の上にクラウドを横たえ、自分も服を脱いで隣に滑り込んだ。

(クラウド、あったかいなぁ・・・)
両手で抱き寄せると黙って身を寄せてきてじっとしている。

(おまえも気持ちいいんだろ。人肌はいいよな〜)

クラウドを見るといつもの虚ろな目でザックスを通り越した彼方をみつめている。もうパニックはおさまっているようだ。

ちらつく火灯りを受けてクラウドの肌が白く光る。
そっと触ると吸い付くように滑らかで、しっとりしている。
胸元から平らな腹部にかけてそっと撫でてみた。

(女よりずっと綺麗だ。)

優しくそっと撫でさする。クラウドの虚ろに見開いてた目がゆっくり閉じ、軽い溜め息が口からこぼれた。

(わかるんだ。撫でられてるのに反応してる・・)
そっと首筋に口付けをした。日にあたってないうなじはあまりに白く、唇の下には規則正しい脈を感じる。
体の奥から熱いものがこみあげてきた。

(クラウド!クラウド!!)
下腹部のさらに奥、体の芯から湧き上がる欲望は急激に膨れ上がり、疲労した精神を凌駕し自分を支えていた固い枠を取り払おうとしている。

ザックスはゆっくりクラウドの上にのしかかった。

肌を合わせると温かく、頬ずりすると軽く瞬きをする。
柔らかい唇を吸い、ゆっくり舌をさしいれる。抵抗は全くない。
両手で頭を抱き髪をまさぐると体の下でちいさく「ん・・・」と声をたてる。

(オレはダメだ、クラウド、おまえをこのまま抱いてしまう・・・たぶん・・・疲れすぎてるんだ。)
薪のはぜる音が響いた。パチリという高調な音にはっと目の覚めた思いがした。
(今眠っていたのか、オレは??)
意志の力を集め、からだを離した。逆にクラウドがしがみついてくる。

(赤ん坊と同じなんだ・・・)ザックスは片方の肘をつくとクラウドの髪をもう片方の手で優しく撫でた。

(オレのでっかい赤ん坊・・・)

(何か食わしてやらないとな・・・寝るのは後にするか。)

やっと温まった体をベッドから剥がすように起き上がると、全身に鉛がついてるのかと思うくらいの疲労感が襲ってきた。

(腹減った・・・クラウドだって腹が減ってるはずだ。)

やっとのことでベッドから這いずり出て背嚢の中をかきまわす。
オートミールとチーズ、ベーコンのブロックを取り出した。

暖炉にかかった小鍋にオートミールの粉を入れ一本しかないスプーンでゆっくりかき回す。
(オートミールか・・・不味いんだよな、コレ・・)

クラウドをベッドから起こし抱き上げると、椅子に座らせた。

クラウドはぼんやり隅の壁を見ている。

オートミールを火から下ろすと、がたつく木のテーブルに置いた。薪から小枝をかきとり先

にチーズとベーコンのカケラを刺すと火であぶった。

(クラウド、少しでも食べてくれ。)

小鍋のオートミールをスプーンにすくい息をふきかける。

(これくらいなら熱くないだろう・・)

後頭部を腕で支え、抱きかかえてゆっくり口にスプーンを差し入れる。

見ているとなんとか咀嚼しているようだ。

(よかったな〜、食べてくれたよ。)

次はあぶったチーズを最初に自分が少しかじりとる。胃は収縮し、ぎゅうっとねじれるように痛む。
(まず、クラウドに食わせないとな。)

チーズを口に入れようとするが口をなかなか開かない。

(しょうがないなあ・・・)

あぶったチーズは半分とろけていて、香ばしい匂いが立ち込めてる。
ザックスはチーズを大きく齧り取ると、半分はつい飲みこんでしまった。

暖炉の踊る炎を受け、クラウドの白い顔が金色に輝いてる。
ザックスはクラウドの顔を上向けると顔を近づけ、口移しでチーズを与えた。
舌でそっとチーズを口に押し込む。
クラウドの舌がそれを受けいれ、覚束ないペースで噛み始める。

(やったよ!食べてくれた!もう少しだ。チーズは栄養があるから、力がつくぞ。)

チーズを何度も口移しでたべさせる。

(まるで小鳥の雛だ。)ザックスは、昔森の奥で見つけた小鳥の雛をつきっきりで育てた時の事を思い出した。小さくて温かくて・・・

(おお、なんだかオレ、ちょっと幸せな気分だ。)

オートミールも何度もスプーンで口に運んだ。

(飲み物はお湯しかないな。ミルクでもあるといいんだけど。)

持ち歩いてるアルミのカップで白湯を飲まそうとしたが、口の端からだらだら垂れてしまう。

仕方なく、今度も口移しで飲ませた。ごくんごくんと喉を鳴らして飲んでくれた。

クラウドははっとしたように身を起こすと、ザックスをじっと見つめた。

「クラウド!!オレがわかるか??」思わず大きな声を出し、クラウドの肩をつかむ。

クラウドはしばらくザックスを見つめていたが、ふぃと視線をそらし、再び自分の中に沈み込んでいった。

(大丈夫だ、絶対クラウドは元に戻る!!あと少しだ・・)

なんとかクラウドに食べさせた。
外は吹雪の音がゴウゴウと響いてる。時々ドン!という音がして小屋が底揺れする。
暖炉には火がはぜ、狭い小屋の中にゆらゆらと影が躍る。

疲れきった体に温かい滋養に満ちた食べ物が染み渡る。
眠い。これで眠れば少しは体力が戻るだろう。

小鍋に残ったお湯をタオルにかけ、雪をまぶして冷ましながら絞る。

「クラウド、体を拭いてやるよ。何もしないさ。さっきは悪かった・・」
ザックスはクラウドの顔と体をきつく絞ったタオルでふいてやった。
きつくこすると真っ白な顔に赤みが差す。首もしっかりふいてやった。

(悪いな。全部脱がすぞ。)
素裸にすると火灯りの中、全身が白く輝いてるようだ。

(綺麗だ・・・)

きちんと隅々まで拭いてやった。
気づいたら自分が汗ばんでる。
火の前に置いておいた下着はもうほとんど乾いてる。
クラウドに着せてやった。

(ゆっくり寝ろよ。)ベッドに横たえてやり、自分の体もお湯で拭いた。
かなりさっぱりし、疲れがとれてきたような気がする。

(今夜はいいけど、明日からはどうしようか・・・やっぱり何か乗り物がないとな・・どこかでくすねてくるか・・)

クラウドの隣に潜りこむ。もうクラウドは寝息を立てている。
ザックスはクラウドを軽く抱きしめると眠りについた。

(神様、ありがとうございます。オレは変に幸せな気持ちです。どうかクラウドを元にもどしてやってください。オレは全力を尽くします。
ミッドガルに無事に着けますようお守りください。)

ザックスの祈りは最後の方はほとんど言葉になっていなかった・・

二人は抱き合ったまま深く眠り込み、つかの間の安息に身をゆだねた。



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