<生誕・・・第一段階>
冷たい雨が頬を流れる。
目に入った雫を無意識に手でこすった。
ここは何処だろう・・
目を開くと、自分の上にのしかかってくるような暗い灰色の雲が渦巻くように流れていく。
襟足に流れこんでくる雨に思わず身震いをする。
ゆっくりと体をおこすと、きしんだ関節が悲鳴をあげ、目が廻った。
全身が継ぎはぎの別の生きもののようで、手も足も他人のものをようやく動かしてるようにぎこちない。
寒いのに、寒さの不快さはない。ただ寒い。
辺りを見回そうと泥の中をゆっくり這いずって横たわっていた岩陰から顔を出した。
雨は激しさを増し、這っていく自分の前を幾筋もの泥水が流れる。
何かに突き動かされるようになおも這っていくと泥水がいつのまにか赤黒い血の流れになっている。
ゆっくり肘を使って体を前に出していく。
視野が狭くなっているようで、ほんの目の前しか見えないがさらに進むと血溜まりが広がる。
顔を上げると彼がいた。
そう、彼、だ。
鉛色の空の下で雨にうたれて横たわってる。
この血溜まりは彼の血。
名前は???名前は・・・遠くから響く鐘の音の余韻を捕まえるようにじっとして耳を澄ます。
体を起こして彼を見下ろす。
全身に穿たれた銃痕から血はもう流れ尽くしている。
彼は目を開けている。曇天の中、異質な色合いを放つ蒼い瞳。
蒼い・・・蒼い目。
ぼんやりした記憶の底で何度も自分の名前を呼びかけ、顔を覗き込む蒼い瞳。
「ザックス・・」何も思い出してないのに言葉が先に出た。
一瞬顔をしかめ、蒼い瞳につかのまの生気が蘇る。
「おれの分まで・・・」彼は微かな息をはきながら下から見つめる。
「あんたの分??」なんだろう、なんだろう、なんのぶんなんだろう・・
「そうだ・・・おまえが・・」「オマエが・・??」彼は奇跡のように手を持ち上げ、クラウドの肩に手をかけクラウドを抱く。
そうだ、この手がかつて力強く自分を守ってくれたことがある・・・
「生きる・・・」
ざらついた服をとおしてザックスの血糊が浸み、頬に粘りつく。
クラウドは、すでにほとんど動かない冷たい胸に顔を押し当てたまま、忠実な犬のようにザックスの言葉を待った。
「おまえが・・・・おれの生きた証し・・」手はずり落ち泥をはねかえす・・
クラウドはゆっくり顔をあげ、彼を見つめた。雨はさらに激しさを増してきた。
「おれの誇りや夢・・」ザックスはひきずるように右手を伸ばし、彼の魂と言ってもよいバ
スターソードをクラウドに手渡した。
「全部やる・・・」全部・・全部・・彼の全部???
クラウドはバスターソードを受け取った。受け取ったのだ、確かに。
今ザックスはすべてを与えようとしている・・・クラウドに。
「オレがお前の生きた証し・・・」
オレ?オレはお前の証し・・・・・
クラウドの魂に何かが刻印された。
ザックスは小さく息を吐くと目を閉じた。
うあ・あ・あ・・・・
あああああ〜〜〜〜!!!
ザックス!!ザックス!!ザックス!!
「トモダチだろ??」彼は笑った。
奔流のように思い出が溢れ、さらに深い、もっともっと記憶の奥に秘められてる思い出が一気に吹き上がる。
過去の一つ一つが津波のように膨れ上がり光を帯びて砕け散り体の隅々まで満たす。
ザックスが全身に染み渡る。微粒子のように、滋味深い水のように。
オレは誰だ?オレの中にいるのはザックス・・
「ありがとう、わすれない」
「おやすみ・・・、ザックス」
つぶやいてるオレはもうオレではない・・そんなオレを見てるオレがいる。
雨はいつのまにか上がり、空気が動き出した。
風は何処から吹いているんだろう??
クラウドはバスターソードをひきずり、地平にそびえる魔都ミッドガルへ向かう。