<生誕 第二段階>
金属の冷たい固さを唇に感じる。軽く食いしばった歯をこじ開けるようにそっとさしいれられたスプーン。
「ほら、食わないとダメだ。ともかく食ってくれ・・」
赤ん坊に諭すように一口ずつ口にはこばれる食べ物。
匂いも味覚もよくわからないくせに、スプーンの感触だけは覚えている。
澱みの中から浮かび上がってくるように、ふと正気に返りそうな時もある。
「美味いか?もうちょっとだ。頑張れ。」
後頭部を支える筋肉のついた固い腕。
一瞬目が合うと「クラウド!!クラウド!!」と呼びかけてくる。
蒼い目がじっと自分を見つめる。
(おまえの目もスゴイ色になっちまったなぁ・・・完璧なソルジャーだよ。)
(ミッドガルに着けばなんとかなる。あそこにさえ着けば大丈夫だ。)
(オレたちはなんでも屋をやるんだ。デリバリーもいいなぁ・・・)
(寒くないか?疲れたろう?)
(オレの故郷は雪なんか降らないから、雪、見たことなかったんだ。)
頭を撫でられ、耳元で繰り返される言葉。それらの言葉は理解されないまま記憶の底に沈殿していく。深海の底に降り注ぐマリンスノウのようにひたすら深みへと沈んでいく。
手をとられ、半覚醒のまま朦朧として親についていく幼児。
(オレのでっかい赤ん坊・・・)
頭をぽんぽんとたたき、笑いかける。
「トモダチ、だろ?」
突然かき乱される水に、底の澱が舞い上がるように記憶がふと蘇り、また沈みこむ。
それは繰り返されるたびに、曖昧になりやがてはほとんどの記憶がひたすら暗い奈落に沈んでいった。
荒野を吹き抜ける風の中、暗闇に魔光都市が浮かび上がる。
煌く不夜城は不毛の大地にそそりたつ。
(ミッドガルへ行かないと。)
その思いは妙に強く、すべてに優先していた。理由はわからない。
バスターソードはいつのまにか重さを感じなくなっている。
(ソルジャーはこれくらいの重さは感じない・・・)自分がつぶやいたのか、誰かがいったのか?
急ごう、ミッドガルで何かが待っている。
感覚は鋭くなっており、微かな列車の振動音を空気の中に感じる。
彼方から列車が近づいているのだ。あれに乗っていけばミッドガルにそのまま入れる・・・
先を急ぐと、荒野がとぎれ崖になっている場所に出た。
はるか下を線路が走っている。
ここから飛び降りれば列車に乗れる。
こんな高いところから??
大丈夫、ソルジャー1stなのだから。
列車はミッドガルに向かって轟音をあげて近づいてくる。
何も考えてないのに体が動く。
タイミングを図り飛び降りた。強い衝撃を感じたが、無意識に手は列車の屋根にある突起を握り締めている。
風圧に逆らい、顔をあげる。列車は減速しつつある。
ほら、どうってことない、これくらい。
オレは・・・オレは・・ソルジャーなのだから。
オレはクラウド・・・ソルジャーClass 1st。