血と硝煙と泥と〜エピソード



レオンはウータイの参謀本部に待機となった。
ウータイ戦は山を超えたと首脳部はまことしやかに語っているが、現実は前線からの負傷兵が引きもきらず本部の医療施設に送られてきており、毎日の戦死報告は数を増してきている。自分もそろそろ負傷したソルジャーと交代で前線に赴かないといけないだろう。

ザックスは無事なんだろうか?
ザックスの送られた戦線は全滅したという噂の小隊もあり、激戦中の激戦区だ。
本部前に貼り出される撤収部隊と戦死者の報告には必ず朝一番に目をとおしている。

今朝も呼吸を整え、本部前の報告を上からじっくり点検した。

あった・・・ザックスの部隊は任務完了(これはスゴイ!)して今日本部に戻ってくるようだ。
22名中戦死者7名、重症者8名・・・ヒドイものだ。
戦死者、重傷者の中にはザックスの名もアイツの名前もなかった・・・
まずは胸をなでおろす。

昼ごろ練兵場に前線からの引き上げ部隊が到着するという話なので、昼飯を済ませてから人と軍用車でごったがえす練兵場にでかけた。

練兵場は、埃をあげて乗り込んでくるジープ、負傷兵のためのストレッチャー、車椅子の脇で怒鳴る軍医、回収してきた遺体を納めるワゴン車などで見渡す限り狂騒状態だ。
これは後で落ち着いてから本部で探すか、とあきらめかけた頃、向こうから黒髪の背の高い若者が歩いてくる姿が目に入った。

ザックスだろうか?
背伸びして目を凝らすと隣に金髪の青年を伴っており、ほとんど顔をつけんばかりに話している。
ザックスもクラウドも無事だったのだ。
レオンはザックスに向かって声を張り上げ手を振った。
ザックスは顔を上げると、やつれてはいるものの、なんとも幸せそうな笑顔で手を振り返した。
クラウドもこちらを見た。レオンの姿を認めると軽く一礼し、笑みを浮かべた。

そうか、クラウドはザックスを手に入れたのだ・・・


あれはザックスがウータイに出発して一週間くらい経ったころだった。
レオンの部屋に突然クラウドが蒼白な顔をして訪ねてきたのだ。

「ザックスと連絡がとれないし、部屋にもいません。ウータイに行ったという話を聞いたんですが。」前置きも挨拶もなくいきなりレオンにせまる勢いで扉を開けた途端話しだした。

ほとんど震えんばかりに気が動転しているようなので、ともかく部屋に通しソファに座らせた。

嘘をつく必要もなかったし、この少年が衝撃を受けてる様が気の毒になり、ザックスの所属部隊と赴任先を教え、メモして渡した。

「ザックスが黙って行った・・・」クラウドは血の気の失せた白い顔でつぶやくとレオンから受け取ったメモを握り締めている。

「ヤツも軍人だから、突然の召集はよくあることだ。」慰めになるかもわからなかったが、レオンもなんと言っていいかわからずそういった。

「オレは・・・オレは・・・」クラウドはそう言ったきり絶句してわなわな震えている。

レオンはクラウドが発する激情の気に圧倒され、ともかくお茶でも淹れて少しでも気を鎮めてやろうとその場を離れた。

普段の無表情な彼からは想像もつかない感情の発露は、部屋いっぱいに広がって息苦しいくらいだ。

お茶を出してクラウドの向かいに観念して座った。

「オレは子どもだった・・・オレもウータイに行きます。」クラウドは顔を上げるとレオンを見据えた。

「どうしたらウータイに行けますか?」

レオンは自分にわかる限り話をした。
まず、新兵がウータイに派遣される率は低いので、召集されやすいようにウータイ戦に役立つ訓練を自主的に受けること。
前線の兵士補充は結構ちょくちょくあるが、皆行きたがらないので、希望をだしておくと行きやすいこと、など一般兵がウータイ行きを免れようと努力してることの反対のことを教えてやった。

クラウドは真剣に聞いていたが、少し気持ちが落ち着いたのか、

「ありがとうございます。突然やってきてすいませんでした。」と深々と礼をすると立ち上がった。

扉を開けて出て行こうとするクラウドに、
「ウータイは甘くないぞ・・」と声をかけると振り返って、

「目標ができました。オレは必ずウータイに行きます。」そう答えてきびすを返して出て行った。

クラウドが出て行った後も部屋の中にクラウドの青いオーラのようなものが残ってるような気がして、レオンはしばらく落ち着かなかった。

クラウドがザックスを追いかけてウータイに行ったという話はソルジャーの間でかなりの噂になったが、レオンは一人秘かに胸打たれていた。


二人が無事に帰ってきたら、この話をザックスにしてやろうかと思っていたが、ザックスが蕩けそうな顔をしていたので、しばらく話してやるもんか、と思いながら人混みを掻き分けて二人に近づいていった。

      完
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