「シンジラレナーイ!!!」マリンが叫んだ。
「自分の誕生日にそんなにたくさん仕事入れるなんて!!」腰に手をあててクラウドを睨みつけるマリンになんと言い訳していいかわからず、しばらく黙っていた。

「今日はクラウドの誕生日だから、ティファがケーキ焼くって言ったのに・・オレ、すごく楽しみにしてたんだぜ・・」デンゼルまでぶつぶつ言ってる。

「忘れてたわけじゃないでしょうね・・・自分の誕生日。」ティファが目を細めてクラウドを見る。マズイ、かなり怒っている・・・

「いや、11日って思って仕事入れたわけじゃないんだ。来週の月曜、って思って仕事入れただけで・・・」
何とかそれなりの言い訳をやっと思いつき、自分を睨みつける二人の女性の視線に耐えた。

ウソだ。オレは自分の誕生日だと知っていて仕事を多めにいれたんだ・・・

いまだに曖昧なところが沢山ある記憶は、時にフラッシュバックするように蘇ることがある。
去年の誕生日、いつもケーキはいらないと言ってたのに、マリンの希望もあってティファがケーキを焼いた。

白い生クリームに季節のベリーが綺麗に飾られたケーキを見たとたん、鮮やかに一つのシーンを思い出したのだ。

初めてミッドガルで祝った誕生日を。
故郷を離れ、自分の誕生日なんて、と拗ねた気分でいた時に大きな誕生日ケーキをいそいそと持ってきて祝ってくれた蒼い目の友人を。

「オマエ今日、誕生日だって前に言ってたよな?誕生日はいいいもんだぜ!」

まるで目の前にいるようにあの明るい声が聞こえたのだ。
一つの情景を思い出すと記憶の糸はいきなりつながりだし、その日のことが次々記憶の底から立ち上ってくる。
鮮明になった記憶が自分を苦しめる。まだどれだけの思い出が自分の中に沈殿してるんだろう?

(オレは自分の誕生日をおそれている・・・)
今年もその季節が廻ってきた。
夏は照りつける光のまぶしさに比例して、夜の闇も濃い。
「家族」そろっての楽しいひとときの後、フラッシュバックしてきた思い出と向き合うのは耐えがたく苦しい。

それ以上色々話すのも面倒で、コーヒーも飲みかけのまま家を後にした。

風を切って走るのは気持ちよく、自分のもやついた思いも後ろにどんどん捨て去っていける気がする。

何も考えないようにして飛ばしていたせいもあり、予定よりかなり早く仕事を終えた。


家に帰る気が進まず、気づいたら彼の墓標へと向かっていた。

ミッドガルを見下ろす小高い丘の上は風が強く、腰を下ろすと昼間のぬくもりの残った砂の温かさが人肌のように心地よい。

(オレはいまだにあんたの名前を口にだして言えない・・・言ったら感情が溢れてきそうで。)
ここからだとミッドガルの灯りがよく見える。
こんなに近かったのだ・・・

あれから何年たったか考えるのも苦痛だ。
これからも繰り返す夏のたびに、自分の誕生日が来るたびに、思い出すのだ。

思い出して苦しむのは残された者への罰なんだろうか。

砂が温かい。思わず寝転び天を見上げた。夏の夜空は吸い込まれるように黒く、明るい星がいくつかまたたいている。
天の川ははっきり見えない。

淋しい、彼がいなくて淋しい。心の中で彼の名前をつぶやいた。

(ザックス・・・)

しばらく星を眺めていたら、肩を叩かれた気がした。頭をめぐらせると蒼い瞳が自分を見つめている。
驚いて飛び起きた。ザックスはクラウドの隣に座ると、頭を抱き寄せた。

(オマエ、まだ自分が幸せになることに慣れないの?)

オレは・・・ザックスがいないことに気づきもしなかったんだ・・・

(オマエの中にオレはいるんだ。それだけじゃないぞ。オマエの周りにもいつもいる。)

ザックスは昔よくやったように、クラウドの髪をくしゃりとつかんだ。

(クラウドの幸せがオレの幸せだ。さあ、堂々と幸せになってくれ!)

ザックス・・・

ザックスはにっこりとクラウドに微笑みかけた。

(みなオマエの帰りを待ってる。オマエは自分で思ってるよりずっと皆に愛されてるんだ。気づけよ!)

ザックスは立ち上がると振り向きざまに軽く手をふり、溶けるように闇に消えていった。


遠くで野犬の遠吠えがする。
クラウドははっと気づくと周りを見回した。

夢だったのか、うつつだったのか確かめようもない・・・

時計を見るともう8時すぎていた。

(そうだ、皆待ってるかもしれない・・)砂を払って立ち上がるとフェンリルにまたがりエンジンをかける。

ふりかえってもそこには誰もいない。
ただ風だけが軽く砂塵を巻き上げている。


セブンスヘブンのドアを開けると歓声がクラウドを迎えた。

「おめでとう!!クラウド!!」マリンが抱きついてくる。

「クラウド、よかった!オレもうハラペコだよ!!」デンゼルもとんでくると、クラウドの上着をあずかる。

テーブルの上には綺麗に飾りつけられたベリーのケーキと、鶏を焼いたもの、鮮やかなサラダなどが乗っていて、美味しそうな匂いが部屋にたちこめている。

「クラウド・・・お誕生日おめでとう・・」ティファはクラウドに近づくと両手で顔をはさみ、そっと口付けした。
「ティファ・・」

ティファはにっこりすると、
「誰かさんが素直じゃないのはわかってるんだから。」といいながらクラウドに椅子を引いた。

マリンとデンゼルが、どっちがケーキを最初に切るかでもめている。

(オレは・・幸せなんだ・・・)

お祝いのワインをついでもらいながら、カウンターをふと見ると、グラスを掲げて乾杯してる人影が一瞬見えたような気がした。

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