ああ

□あの娘の小指
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僕はおとぎ話や迷信を信じる質ではなかったし、本当だとも思わなかった。(小さい頃は分からないけど)長い間眠っていた姫が王子のキスで目が覚めたり、王子が硝子の靴片手に意中の人を探し回ったり、なんてありえないだろう。キスなんかで目覚めるなら王子じゃなくてもいいじゃないか。手掛りが硝子の靴だけじゃ無理だろう。なんてそんな事ばかり考えてしまう僕は他の子供から見れば、嫌な奴なのだろうか。……そういえば、昔、小さい頃に幼馴染みの少女が言っていた気がする。

『小指にはね、赤い糸がむすんであるんだよ』

「赤い、糸?」

『うん。それでね、その糸は違うひとの小指とつながってるの』

「違う人って誰なの?」

『えっとねぇ…将来を誓い合う、ひと?』

お母さんから聞いたの、と頬を紅潮させながら話す彼女は今は何処にいるのだろうか。あの時はお互いに小さくて言葉の意味なんて分からなかったけど。僕が旅に出た少し後に、彼女も旅に出たと聞いた。故郷を出発してからもう半年も経つというのに、彼女には一度も会っていない。…会いたい。不意に左手の小指が視界に映る。あかい、いと。彼女はまだあの話を信じているのだろうか。僕はおとぎ話や迷信を信じる質ではない。だけど、この小指に赤い糸が結んであって、そしてその先に彼女が居たら、少しは信じてみようと思う。







(あれ、コウキ君久しぶり)
(……あー、久しぶり)
(どうしたの?そんな顔して)
(いや、何でもないよ。それより小指見せてくれない?)











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これってコウキじゃなくてもよくね?←
赤い糸のおはなし。


title 水葬





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