ああ

□空は飛べないけど
1ページ/1ページ



『…あぁ』


酷く疲れた声が頭上から聞こえた。
春の麗らかな昼下がり、マスターと僕は森の中の一本道を歩いていた。


「マスター?…疲れた?」

『え…いや、大丈夫だよ』


隣を歩くマスターを見上げると、ニッコリと笑い返してきた。けれど、滲み出る疲労感は拭い切れてない。
朝早くポケモンセンターを出てから休憩らしい休憩をとっていないせいで、何時も体力だけはある。と豪語しているマスターも流石に疲れたようだ。


「ねぇ、マスター。休憩しないと…」

『大丈夫だって。それにあと少し歩けば、目的の町に着くんだし』


もうちょっと頑張ってね。と僕の頭を優しく撫でるその手に思わず口元が緩む。


『ポッチャマ疲れた?』

「そ、そんなことないです!」

『あはは、なんでいきなり敬語なの?』

「えっと、その、あー…」


僕の敬語が可笑しかったのか、マスターはクスクスと笑っている。僕は頭に手を当てたまま、むぅと口を尖らせた。それを見たマスターは更に笑いはじめて、さっきまで不機嫌な気持ちは何処かへ行ってしまった。


「……あ」

『ん?どうしたの?』


少し傾き始めた太陽を眺めていると、ふと良い案が浮かんだ。


「ねぇ、マスター!」

『何?』

「僕……僕、疲れた!」


マスターの服の袖を引っ張って、笑顔で告げる。
しかし、すぐに真顔になって、いかにも疲れてる風に見せる。
マスターは僕を見ると、じゃあ休もうか。と近くの木を指差した。(大丈夫、気付かれてないみたい)


『ポッチャマ、喉渇いてない?』

「へーき、僕これでも水タイプだからね」

『ふふ、そう?』


木陰に座って、くすくすと小さく笑うマスターを横目で見て、僕は満足感でいっぱいだった。
これでマスターが休憩をとることができるし、正直僕も疲れてきた頃だった。
我ながら良い案を思いついたものだ。


『ねぇ、ポッチャマ』

「んぐっ、はひ?」


マスターが作った卵のサンドイッチを口いっぱいに詰め込んだまま、僕はマスターの方へと振り向いた。
(それにしてもマスターが作るサンドイッチは美味しい。もちろん他の料理も。だけど)


『ありがとう』

「………へ?」










は飛べないけど君にを囁くことは出来るのです。

僕はいつだってマスターのことが一番なんです。




















------------
前サイト遺物


title水葬

090416



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ