ああ
□空は飛べないけど
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『…あぁ』
酷く疲れた声が頭上から聞こえた。
春の麗らかな昼下がり、マスターと僕は森の中の一本道を歩いていた。
「マスター?…疲れた?」
『え…いや、大丈夫だよ』
隣を歩くマスターを見上げると、ニッコリと笑い返してきた。けれど、滲み出る疲労感は拭い切れてない。
朝早くポケモンセンターを出てから休憩らしい休憩をとっていないせいで、何時も体力だけはある。と豪語しているマスターも流石に疲れたようだ。
「ねぇ、マスター。休憩しないと…」
『大丈夫だって。それにあと少し歩けば、目的の町に着くんだし』
もうちょっと頑張ってね。と僕の頭を優しく撫でるその手に思わず口元が緩む。
『ポッチャマ疲れた?』
「そ、そんなことないです!」
『あはは、なんでいきなり敬語なの?』
「えっと、その、あー…」
僕の敬語が可笑しかったのか、マスターはクスクスと笑っている。僕は頭に手を当てたまま、むぅと口を尖らせた。それを見たマスターは更に笑いはじめて、さっきまで不機嫌な気持ちは何処かへ行ってしまった。
「……あ」
『ん?どうしたの?』
少し傾き始めた太陽を眺めていると、ふと良い案が浮かんだ。
「ねぇ、マスター!」
『何?』
「僕……僕、疲れた!」
マスターの服の袖を引っ張って、笑顔で告げる。
しかし、すぐに真顔になって、いかにも疲れてる風に見せる。
マスターは僕を見ると、じゃあ休もうか。と近くの木を指差した。(大丈夫、気付かれてないみたい)
『ポッチャマ、喉渇いてない?』
「へーき、僕これでも水タイプだからね」
『ふふ、そう?』
木陰に座って、くすくすと小さく笑うマスターを横目で見て、僕は満足感でいっぱいだった。
これでマスターが休憩をとることができるし、正直僕も疲れてきた頃だった。
我ながら良い案を思いついたものだ。
『ねぇ、ポッチャマ』
「んぐっ、はひ?」
マスターが作った卵のサンドイッチを口いっぱいに詰め込んだまま、僕はマスターの方へと振り向いた。
(それにしてもマスターが作るサンドイッチは美味しい。もちろん他の料理も。だけど)
『ありがとう』
「………へ?」
空は飛べないけど君に愛を囁くことは出来るのです。
僕はいつだってマスターのことが一番なんです。
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090416