猫アリ Novel
□喪失感
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「ただいまっ!」
アリスが学校から帰って来た。
おかえり。と僕は言う。
アリスは鞄を置くと、僕の方には目もくれず、そのまま洋服ダンスに向かった。
慌ただしく服を着替えるアリス。
僕は後ろを向く。アリスが着替え中は見ちゃダメだって言ったからね。
最近、アリスに友達が出来たらしい。
学校から帰ってくると、服を着替えてすぐに出ていってしまう。
ねぇ、アリス、僕は……。
「7時くらいには帰ってくるから。じゃあね」
「いってらっしゃい、僕らのアリス」
アリスは結局、一度も僕のことを見ずに走っていった。
最後に掛けた僕の声さえ、聞こえなかっただろうね。
アリス、僕は……。
学校帰りのどたばたとは違い、リズミカルに階段を上ってくる音がする。
カチャッ。
「ただいまー♪」
「おかえ…」
バタンッ。
言葉を掛ける暇すらない。
でも……。
「これでいいんだよ」
この言葉は、誰に向かっての言葉?
僕らのアリスに向かって? それとも……。
晩御飯を食べた後、アリスはケイタイデンワで友達とデンワをして、すぐに寝てしまった。
アリス、今日は一回も僕の方を見てくれなかったね。
気付いてるかい?
僕らのアリス、さようなら。
もう時間だよ。
すぅーっとフードを被った首が、暗闇に溶けていく。
アリス、僕はね……。