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□メトロノームにさよなら
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「 ただいま 」
玄関の戸を開けると、
部屋の明かりがついていた。
揃えられた革靴。
リビングから聞こえてくる野球中継の音に、
今日は彼の方が一足早かったのだと気付く。
リビングに入るなりスーツを脱いで、
重たい鞄を床に放った。
結構乱暴に。
いつもならやらないけれど。
今日は物に当たりたかったんだ。
「 今日は早かったんだね 」
「 あぁ 」
ソファーで寛ぎ、
テレビに視線を向けたままの彼。
どうやらお気に入りの球団が
首位をかけて奮闘中らしい。
ちなみに彼がこの球団を
「お気に入りだ」と言った事は一度もない。
いつも大体見ているから、
あぁ、好きなんだなって気付いただけ。
まぁ、もう長い付き合いだし。
「 お風呂入ってくる 」
『 あぁーっと!さよならホームラァーン!ここへ来てまさかの逆転勝ちです! 』
テレビから流れる興奮気味の実況に、
彼の口から舌打ちが聞こえた。
あ、負けちゃったのね。
眉間にシワを寄せた彼の姿を尻目に、
私はあえてもう一度告げた。
「 お風呂入ってくるから 」
「 …あぁ 」
ま、こんな反応いつもの事なんだけど。
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