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□空を駆ける
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 セナの着替えを待ち始めた時、リオンのマルチナビがコールを受けた。
 相手はカゲツだった。
 どうしたのだろう?
「少し失礼します」
 青年に断って席を立ち、訝りながら出る。
「はい、リオンです」
「おっ! 繋がった!」
 やっぱりリオンの方が性能いいんだな、と感心した口調だった。
「・・・・・・?」
「ダイゴに代われるか?」
「あ・・・いえ・・・・・・」
 気まずい思いで答えるが、そうか、まぁいいや、とあっさり返事が返ってきた。
「聞いてくれ。さっきの通報な、たまたま近くを通ったトレーナーのポケモンが、あなをほるを使って脱出したってよ」
「え?」
「だから適当に切り上げてきていいぞ」
「は、はい・・・・・・・・・・・・」
「あ、また発掘にのめり込んだりするなよって言っといてくれ」
「わかりました・・・・・・」
 それで、通話は終了した。
 さっきの通報?
 あなをほるで脱出?
 ・・・・・・発掘?
 リオンは考えた。
「・・・・・・・・・・・・」
『おっ! 繋がった!』『やっぱりリオンの方が性能いいんだな』という台詞から、ダイゴのマルチナビに掛けても繋がらなかったことが伺える。
『ダイゴに代われるか?』『そうか、まぁいいや』という台詞からは、自分がダイゴの近くに居るとカゲツに思われているのだろう(そういう仕事をしていると紹介されたのだから当然だったが)。
 つまり今聞いたことは、すぐにでもダイゴに知らせなければならないのである。
 しかし・・・・・・ダイゴはどこに行ったのだろう。
 電波が届かなかったのだから、恐らくカナズミシティではない。
 こんなことになるのなら、意地でも彼に着いていけばよかったのではないか。
 なんとか推測くらいはできないか、と思考をめぐらせる。
 ・・・・・・カゲツから連絡が来るということは、ポケモンリーグに通報があって、救助要請が出されたのだろう。
 それはきっと各職員のマルチナビに一斉送信で知らされたのだが、リーグ職員ではない自分には送られなかった。
 リーグに通報があったということは、警察の手に負えない危険な場所での遭難か、よほどサイユウシティに近かったかのどちらかだ。
 しかしダイゴはカナズミシティにいながら出動したのだから、後者ではない。
 発掘というワードから、洞窟か岩場なんかが予想される。洞窟の中なら、マルチナビはそうそう通じない。
 となると、彼の現在地に最も近い洞窟からの通報だったのではないだろうか。
 マルチナビでタウンマップを開いた。
 それに当てはまるのは・・・・・・流星の滝。
 そこは、ダイゴが何度も何度も潜ったことがあると聞いている。救助要請があったとすれば、彼は迷わずに飛び込んでいくだろう。
 けれど場所がわかったところで、問題は移動手段である。
 ふっと振り返ると、新しい服を纏ったセナがもう席に着いていた。こちらに気付いて、大きく手を振る。
 ・・・・・・今日、ミナモデパートまでの移動はバスだったが、セナが機動力に富んだ自慢のポケモンを連れていないはずがない。
 リオンは席に戻った。
 戻って、開口一番。
「セナさん、リラを貸してください」
「えっ?」
 詳しい事情を話そうとする前に、
「あ、うん。いいよー」
 と、ふたつ返事。
「ダイゴくんになにかあったってとこかな?」
 気前よくモンスターボールを渡してくれる。
「今この人がパフェ奢ってくれるって言ってたんだけど、行っておいで、付き人ちゃん」
 スムーズに事が運びすぎて、いっそリオンの方が気後れしながら、セナはいい笑顔で見送ってくれた。
「で、では行ってきます」
 リオンはフェンスへ駆け出す。
「力を貸してね、リラ」
 ボールから放たれたフライゴンは、大きな翅を羽ばたかせて声を上げた。
「え? ちょっと、なにを───」
 セナがきょとんと眺めているのを尻眼に、リオンはフェンスを乗り越えると、フライゴンの背に飛び乗った。
「うぉ、リオンちゃっ、
 ・・・・・・えぇー、行っちゃったよー」
 フライゴンは瞬く間に空を駆けて、ちいさくなる。
 フードコートの他の客は、なにがあったのかわからず、むしろセナの驚きようにびっくりしている。
 青年も驚いたようで、リオンとフライゴンが飛んで行った方向を呆然と見遣った。
「彼女は・・・・・・どこへ行ったんでしょうか?」
「さぁねぇ・・・・・・どこだと思う?」
「ボクにわかるわけないですよ」
「ん、そうなんだけどねぇ。あっちは西かぁ。西にあるのは煙突山とか、流星の滝とかかなぁ」
 ダイゴの行き先、カナズミシティを候補から外して、セナは呟いた。緑の髪を掻き上げて、西の空を見る。
「んー・・・・・・リラってばトバし過ぎじゃない。もう見えなくなってるや」





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