Clapping
□−1+2=
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ナマエはこの日、何気ないウィンドウショッピングを楽しんでいた。
バイトでお金貯まったし、春だし、新しい服とか欲しいなあ…。
その時、ふとすれ違った人の髪色に目が行った。
赤。その色に目が引き寄せられた。
そう言えば、あの人最近見ないなあ。
えっーと、確か、ヒソカさん。
この前の一件以来、見てないお客の顔を思い浮かべた。
イケメンだったなあ。
なんて事を考えていたせいか、いつの間にか足は止まって、ぼっーとしていた。
「こういう服が好みなのかい?」
「えっ、あっ…」
斜め上から降ってきた声で目の前にガラスがあることに気付く。
その中には、首回りにアクセントがある白のTシャツに薄桃色のチュールスカートを着たマネキンが立っていた。
「私はこんなのよりは、白や黒とかの方が…って、ええっ!?」
突如降ってきた声の方を向いて驚いた。
声をかけてきたその人物に。
「やあ、久しぶり♠」
頭の中にいた件(くだん)の男が目の前にいた。
しかも、にっこり笑って。
「お久し振りです、ヒソカさん」
ナマエもにっこり笑って、再会の言葉を述べる。
「ボクの名前、覚えていてくれたのかい?
それは嬉しいなあ♣
最近、忙しくてあの店に行けてなかったから、忘れられてると思ったよ♦」
優しく頭を撫でられ、ナマエは首をすくめた。
数回会うだけの、しかも、客とウェイトレスという関係の男だったが、不思議と嫌な感じはしない。
むしろ、心地よく感じる。
その心地よさに浸っていると、ヒソカの手が降りて、さっきの質問をまたされた。
「キミはああいう服装が好みなのかい?」
「いえ、私は白や黒みたいな凛とした感じのが好きなんです。
こういう甘い服装はちょっと…」
名残惜しさを覚えながら、ナマエは苦笑を湛(たた)えた。
そして、こちらからも質問を返す。
「ヒソカさんはこんな所で何をしているのですか?」
「ボクは青い果実を探してるんだよ♠」
クツクツと笑うヒソカにナマエは小首を傾げる。
青い果実…?
洋梨かな?それとも、マスカットとか?
なら、そう言えばいいのに…。
いや、青い果物全部集めるとか?
「果物屋ならあそこの角にありますよ?」
変に思いながらも、ナマエは親切に果物屋の場所を教えた。
すると、ヒソカはお腹を抱えて笑い始めた。
その様子にキョトンとするナマエも、また笑いの種。
「ゴメン、ゴメン♠
ちょっと、キミの反応が面白くてね…♥」
「笑いながら謝られても、許す気にはなれません」
ムッとしたナマエは、ツンとそっぽを向いた。
「悪いと思っているよ♣ホント、ゴメン♦
だから、キミに付き合うよ♠」
ようやく笑い終わったヒソカの提案に戸惑っていると、手を繋がれナマエはまた戸惑った。
「えっと、ヒソカさん…?」
「ん?なんだい?」
自分の肩より小さいナマエを見下ろすと、眉間にしわを寄せて、何やらお困りの様子。
「私、一人で歩けますよ?」
「っ、うん、そだね…♠」
パッと手を離して、懸命に笑いをこらえる。
その言い草といい、反応といい、男慣れしていないのがバレバレで、いい笑いの種だと本人は気付いていない。
そこがまたツボだ。
肩をわなわな震わせるヒソカの隣を歩きながら、ナマエはつくづく不思議な人だと思った。
ヒソカはヒソカで面白い娘だと思った。
お互いにお互いの心中を知る術はない。